JSDNニュース No.23
日本災害看護学会 第13回年次大会終了報告
災害看護の原点にたち未来を拓く
私たちは何のために、どのように在り、どこに向かうか
大会長 浦 田 喜久子 (日本赤十字社)
日本災害看護学会第13回年次大会を2011年9月9・10日、さいたま市大宮ソニックシティにて開催しました。3月11日に東日本大震災が発災し、大会の開催が危ぶまれた時期もありましたが、関係各位の多大なるご協力により、2,200名もの方々にご参加をいただき、盛会のうちに終了いたしましたことを心より御礼申し上げます。
大会テーマのもと、教育講演ではマルガレータ・ワルストロム氏が被災者の保護と権利について国際法の視点から問題提起し、特別講演では前田陽子氏が日本の災害医療の原点となった日航機墜落事故救護活動の体験から、被災者の心に寄り添う看護の在り方について語りました。そして自らがこの度の震災の被災者である桑山紀彦氏は、現地の声を映像・音楽・語りを交えて伝え、被災者と支援者の心をつなぐ公演となりました。救援活動の実際や課題、組織間の連携、原発問題をテーマにした震災特別企画は、タイムリーな内容であったと大変好評でした。一般演題は130ものご応募をいただき、16セッションに分かれて活発な議論が行われました。
今大会では災害看護の本質を今一度考えてみようとの主旨でテーマを決定しましたが、未曾有の大災害に接し、多くの方が災害看護のあるべき姿とは何であるのかを改めて問い直されたのではないでしょうか。人としての在り方を問う哲学的テーマで、個々が問い続けてゆかなければならない課題とも感じます。当大会がこれまでの災害や特に東日本大震災時の看護を振り返り、今後の災害への備えや未来に向けて考える一助となれば幸甚です。そして、これからの被災地の復興、災害看護の発展へ向けて、皆様と共に歩んでいけますことを願っております。
開会式 山田理事長ご挨拶
総会報告
第13回年次大会、総会が行われました
平成23年9月9日・10日の両日、日本赤十字社事業局看護部看護部長、浦田喜久子氏を大会長に、日本災害看護学会第13回年次大会が埼玉県の大宮ソニックシティーで開催されました。未曾有の大災害となった東日本大震災の後、最初に開催された学会であり、4年ぶりの関東開催であったこと、そして満を持して日本赤十字社主催であったことなどを反映し、参加者は約2,200名と過去最高に達しました。
総会においても、当日出席者97名と過去最高の当日出席を戴き、委任状と合わせて総会が成立しました。会員の皆さまの関心の高さが伺われます。総会では事業報告として各委員会活動の報告の他、東日本大震災に関する募金活動の報告を行いました。3月18日から6月末日までの間に、 239万円の義捐金が寄せられたこと、その義捐金からこのたびの東日本大震災に係る学会先遣隊活動、7月のフォローアップ調査などを行っていることをご報告しています。
また、理事・評議員の任期満了に伴う選挙結果も報告され、南裕子新理事長(高知県立大学)以下新しい理事・評議員が承認されました。新理事長のご意向により、新体制の指名理事には、新たに東日本大震災担当理事が被災県学会員から指名され(吉田俊子氏 宮城大学)、今後被災地の復旧・復興に向けた活動に係る事業を担当されることになりました。2008年より3年間活動してきました山田覚理事長以下、第4次理事会・評議員会は以上で解散となります。
2013年の第15回年次大会大会長には、中村惠子氏(札幌市立大学)が推薦され、満場の拍手で承認されました。2002年の第4回大会以来、11年ぶりに北の地で年次大会が開催されることになります。
そして次年度は、初めて中部地方愛知県で第14回年次大会が開催されます。総会最後には、次期大会長である臼井千津氏(愛知医科大学)より、大会テーマを始め、愛知県と会場立地などについてご案内がありました。2012年7月28日(土)・29日(日)、大会会場は『ウィンクあいち』です。また多くの会員の皆さまとお会いできることを、被災地の復興と共に心から願っております。
東日本大震災後の最近の学会の活動
理事長 南 裕 子
2011年は3月11日の東日本大震災によって日本全国が衝撃を受けることから始まりました。まだ残雪が多かった時期でしたが、再び本格的な冬を迎えた今、被災地の方々および支援を継続されている方々の生活の厳しさを思うとき、どのような励ましの言葉も虚しく思われます。1995年の阪神淡路大震災以来、次々と日本列島を襲う災害の度に、被災地の方々から多くのことを学びながら培ってきた災害看護学は、ここにきてさらに大きな見直しが必要だと思われます。
日本災害看護学会は、大震災の発生当日から先遣隊の方々と山田覚前理事長との連携のもと、すばやく専門的な活動を開始されました。刻々と見えてきた被災地の方々、看護職の方々のニーズがホームページで掲載されました。募金活動も開始され、国内外の多くの方々から寄付が寄せられました。被災地の人々のニーズは刻々と変化するので、フォローアップの調査もされました。先遣隊の皆様、前役員の皆様に敬意を表します。
そして、9月9日の総会で新しい役員体制が承認されました。理事会が今まで2回開催され、今後の活動方針を模索しています。皆様からいただいた寄付金を基盤に「東日本災害看護プロジェクト」を立ち上げ、主に東北地方に焦点を当てた調査・研究活動(支援活動の評価を含む)や中・長期的視野からの今後の活動計画を立てはじめています。ネットワーク活動として、死者73名、行方不明19名を出した台風12号および死者・行方不明18名を出した台風15号の調査活動を計画しています。また、来年開催予定の8月23日から2日間、イギリスのウエールスで開催される第2回世界災害看護学会への協力支援活動も開始されます。その他の活動も計画されていますが、それはまた後日お知らせいたします。
「東日本大震災プロジェクト」が始動しました!
指名理事 宮城大学 看護学部 吉 田 俊 子
去る3月11日(金)に発生しました東日本大震災により被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げるとともに、不幸にして亡くなられた方々、ご遺族の皆様に心よりお悔み申し上げます。また、被災地の皆様のご無事と一日も早い復興をお祈り申し上げます。
日本災害看護学会では、災害発生直後から被災地に先遣隊を派遣し、現地の医療職と協働して被災状況を把握して専門的な看護支援活動を展開して参りました。私自身も被災地の一員として、ご支援いただいた看護職の皆様に励まされ、多くの元気と勇気をいただきました。この紙面を借りまして、心より御礼申し上げます。
3月11日の大震災発生から早9か月を迎えようとしておりますが、今現在も、引き続き多くの健康問題の危惧、経済・産業喪失等の多大な困難に襲われております。災害弱者の健康悪化や慢性疾患等のリスク状態の悪化が懸念され、長期の専門的な看護支援が重要となっております。私の住んでいる宮城県でも、多くの方が、いままでの長い人生で築いてきた生活基盤を失い、大切な身内を突然失われた喪失感を持ちながら日々の生活を営んでおります。また現地の医療者も被災者であり、その中で未曽有の災害からどのように立ち直るべきか、試行錯誤しながら日々歩んでおります。
被災者、支援者ともに長期的な支援が非常に重要となっており、このような背景から、南裕子新理事長のもと、皆様からいただいたご寄付を基盤として、東日本大震災プロジェクトが立ち上がり、活動を開始することとなりました。以下の活動展開をめざして、現在、関連諸機関との調整を行っております。
①被災地域の健康情報集積と健康問題明確化への支援
②被災地域(仮設住宅等)の健康管理、心のケアへの支援
③被災地看護師の雇用支援への情報提供
④放射線による健康被害について看護職への知識提供
⑤災害への備え(特に急性期での課題)の調査、分析
また長期的支援には、今後、看護系学会協議会などの活動を通して看護系学会が連携を強めて総力を挙げて長期的な支援体制を構築していくことが重要と思います。さらに、被災地では看護実践活動のみならず研究活動でも多大な影響を受けました。この災害の体験を語り、書きとめていくこと、東日本大震災での災害看護の学術的活動を支援していくことも重要になると感じております。
現在、岩手、宮城、福島等の被災地域にお住まいの会員で、一緒に活動をしてくださる方を募集しております。活動希望される会員は、宮城大学 看護学部 吉田俊子 yosidats@myu.ac.jp までご連絡をください。よろしくお願いいたします。
ネットワーク活動委員会・初動調査報告
委員長 酒 井 明 子
同委員会では、国内の災害時の看護ニーズについて調査・情報収集を行い、そのデータを蓄積し、災害看護の知識の構築に貢献しております。2011年は、右記の初動調査を行いました。調査調整部の担当者の皆様、お疲れ様でした。調査にご協力くださいました皆様に感謝いたします。(尚、報告の詳細は後日となります)
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新燃岳噴火災害(発災:2011年1月26日)
1.調査期間:2011年5月25日(水)~26日(木)
2.調査担当者:楢橋明子、西上あゆみ、深谷真智子
3.調査機関:宮崎県小林保健所、都城市役所、
高原町ほほえみ館、宮崎県看護協会
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和歌山県での台風12号15号による水害 (発災:2011年8月末~9月)
1.調査期間:2011年12月1日(木)~2日(金)
2.調査担当者:芝祐子、西上あゆみ
3.調査機関:和歌山県庁、那智勝浦町役場、田辺市役所、
日高川町役場
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奈良県での台風12号15号による水害
1.調査期間:2011年12月5日(月)~6日(火)、12月9日(金)
2.調査担当者:荒尾修平、堀内美由紀、松清由美子
3.調査機関:十津川村役場、野迫川村役場、五條病院、
三室病院、医科大学付属病院
日本災害看護学会 第14回年次大会のお知らせ
開催日
2012(平成24)年7月28日(土)、29日(日)
会 場
JR名古屋駅前・ ウインクあいち(愛知県産業労働センター)
テーマ
「東日本大震災から一年 ~復興とともにある看護~」
大会長
臼井 千津(愛知医科大学看護学部教授)
趣 旨
東日本大震災の発生ではこれまでに経験したことのない複合災害(地震、巨大津波、放射能災害)でした。看護も経験知のない新たに生じたニーズに対し組織や職種の枠を超えて困難な状況に応えてきました。そして現在も厳しい環境で、課題山積のなかで懸命な看護が継続されています。本大会では被災地の皆様の声を多く戴き、災害看護経験が活かされるような企画を鋭意努力しております。そして多くの皆様の実践、研究報告に期待が寄せられています。
名古屋で皆様とともに熱い討論をお待ちしています。 (臼井千津)
編集後記
3月11日の東日本大震災では、地震や津波により大変に多くの尊い命や財産が奪われました。また、これまで経験したことのない、原子力災害にも見舞われ、今なお多くの方々が避難生活を送られています。さらに、この大震災では、被災された多くの看護職者の方々が、自分の生活を顧みず、身を粉にしながら活躍されていました。また、全国各地の看護職者の方々が、被災地の救援・支援活動に参加され、看護の力強さを感じる機会となりました。
被災者がもとの生活を取り戻し、復興するにはまだまだ多くの時間がかかると思われます。看護職者はこれまで以上に協力し合いながら、また、本学会がこれまで蓄積してきた知を生かした活動ができるよう、努めたいと思います。被災地の方々ができるだけ早く、安心した生活を送ることができるために。
日本災害看護学会社会貢献・広報委員会は、これからも災害看護に関連する情報を一層、充実させて発信し、皆様と共に歩んで参りたいと思います。皆様からの御意見をお待ちしております。
委員長:臼井 千津
委 員:今井 家子、大草由美子、
大山 太、瀬戸美佐子、
牧野 典子、城戸口親史(記)