福井大学 月田佳寿美
2004年7月18日未明からの集中豪雨は,福井県嶺北地方を中心に死者4人,家屋の被害14,000戸あまりという大きな自然災害を引き起こした。中でも,山間部の土石流による被害は深刻であった。土石流の発生は瞬く間であり,避難の遅れにつながる。また家財道具などの搬出も出来ず,家屋は土砂に埋まり,住民はそこにあった今までの生活すべて失うことになる。 私は看護学科教員が中心となって組織した医療ボランティア活動に参加した。向かったのは美山町折立地区。土石流による被害が深刻だった地域の一つで,私が活動に参加した災害発生5日目には,電気,水道などのライフラインは一部を除き復旧していたものの,道路はなお一部寸断され,孤立地区を残す状態であった。山の木々と足羽川の景色が美しいこの町は,全く姿を変えていた。河川の岩や大木,土砂に埋まる家屋,道路に乱立する倒木や土砂,それら自然が残した爪跡を目の当たりにして震え上がる思いだった。 医療ボランティアの活動は,集落内の住宅を一戸一戸まわり,住民の健康状態の確認とニーズの把握を行った。2~3名でチームを組み,家財の運び出しや泥かきなど作業を行う住民一人一人に声をかけていった。住民の大半は後期高齢者であり,かけつけた家族や親族に支えられながら復旧作業に取り組んでいた。当時の状況は,Phaseによる災害時のボランティア活動分類によるとPhase2(応急対応期)であり,被災者の疲れが見え始めることが予測され,外傷の手当や血圧測定を行いながら,努めて話を聞くようにした。住民の多くはもくもくと家の片づけを行っており,静かに起こったことを事実として受け止めている印象であった。 ボランティア活動には学生や大学職員も様々なかたちで参加し,この活動を機に大学には福井大学災害ボランティア活動支援センターが発足した。災害はこれからも起こりうるし,ボランティア活動支援は大切である。 災害の被災者が失ったものは決して元には戻らない。生命や生活が脅かされた体験も消えることはない。しかし、被災者にとって、悲惨な体験はなかなか、表出できにくいにことである。そのために、当事者に代わり体験を伝えていくことも,私たち看護職の役割ではないかと考える。 災害の「備え」には,災害の記憶を風化させないことが重要である。