兵庫県立大学大学院看護学研究科(災害看護学専攻) 野口 宣人
気象庁は、9月1日、今夏(6月~8月)の気象統計値を発表した。長引いた梅雨に加え、梅雨明け後も局地的に大雨となるなど、短時間に強い雨が降ったケースが多く、一時間あたり80ミリ以上の猛烈な雨の発生回数が19回と1976年以降の30年間で最多となったという。(2006年9月2日、日経新聞 朝刊) 気象統計値に示されるように、今年も、大雨による被害は日本各地に広がった。被災地の様子を見るたびに、平成16年の「福井豪雨」での体験を思い出す。「福井豪雨」では、被災地の様子に圧倒されながら、ボランティアとして0、被災宅にお邪魔し、泥かきや家財道具の運び出しを行った1)。また、看護ボランティアとして孤立地区に出向き、そこで健康状態や健康ニーズの調査を行い、その調査結果を、公的機関に情報提供し専門医療につなげた。さらに、ボランティアコーディネーターの過酷な活動に対して、その実態について看護職者に知っていただくことで支援の和を広げたいと思い、論文にもまとめた2)。当時の救援活動を機に災害看護への関心が高まり、災害看護を専門的に勉強したいと思い、現在は大学院で災害看護学を専攻している。私のように災害看護に関心を示し、災害看護活動が活発化するのは、阪神・淡路大震災以降において顕著である。それは、看護職の災害看護の活動報告、例えば実践報告や学術論文などにもあらわれており、その活動場所も国内だけでなく国外にも広がっている。 このように看護職の災害看護への関心は高まっているが、災害看護活動の主な対象である被災者に、看護職の活動はどのようにうつっているのだろうか。そこで、先日ある被災者と会話する機会があり、その会話の中に「災害のときは自分や家族が頼りになるが、その他には消防とか自衛隊が頼りだね」と話していたのを思い出した。初動期において頼りになるのは自分自身や家族であり、救援組織として積極的に活動を展開するのは、目に見える形で活動することの多い、消防・警察・自衛隊というのが地域住民の本音だろう。しかし、看護職も、中長期にわたるアウトリーチという地道な活動や、医療機関内で災害看護活動を展開しており地域住民に貢献しているのである。 地域の至るところで活躍している看護職は、その地域が被災を受けることで、特別な役割を担うことになる。その場所は、医療機関であるかもしれないし、保健所や学校や企業、ひょっとすると自分の家庭がその活動場所となる方もいるだろう。それぞれがその場所に応じた災害看護を求められるわけである。このように、災害時は看護職も積極的な活動が求められる職種であり、その活動は多岐にわたっている。私たち看護師は平常時の看護活動以外、つまり災害時においてもその活動意義は十分にある。 看護職は災害時の地道な活動を地域住民に発信していく力を備え、地域住民の災害時における看護活動へ理解を求めていく必要があるのではないか。その根底には、もちろん看護職自身が災害看護を学ぶという積極的な学習姿勢が必要であるし、所属機関の協力や理解が必要となるのはいうまでもない。災害の被害から地域住民や目の前にいる患者、そして自分自身・家族を守るためにも、看護師の災害への意識改革と所属機関のバックアップが必要であり、さらにその活動を発信していく能力が必要となる。この過程は、看護職全体で取り組まなければ実現化しない。そして、看護職全員が災害看護を学び、その成果を所属機関の災害マニュアル策定に生かしたり、実際の災害現場へ足を運び実践する、また災害看護学の理論の体系化をはかるなど、各人はそれぞれの場で求められる災害看護へと発展させ、さらに発信することが求められている。 日々の業務や各種委員会活動に追われ、忙し過ぎる看護職に時間がないのは十分承知している。しかし、災害に詭弁や強弁は通用しない。 本稿が、災害看護を学ぶきっかけから実行までに至れば幸いである。