JSDNニュース No.39
世界防災フォーラム/防災ダボス会議@仙台2019と
仙台防災枠組みに関する取り組み
若手アカデミー担当理事/国際交流委員会委員 神原咲子
2019年11月9日から12日、仙台国際センターで「第2回世界防災フォーラム」が開催された。4日間の期間中、40以上の国と地域から約900人が参加し、大小64のセッションと、仙台市主催の「仙台防災未来フォーラム」、「震災対策技術展東北」と合わせると、約1万人が参加した。世界中で国連や学会は多くあるものの、災害による被害を減らす具体的な解決策に着目した、国際的な情報共有と議論を行う場が少なかったことから、仙台防災枠組を推進することを目的とし、スイス・ダボスで開かれている「国際災害・リスク会議(IDRC)」と連携し、スイスと日本で隔年開催しており、ビルドバックベターや防災の主流化を目指した防災分野で世界をリードしていることを実感する場である。会議の中で、仙台防災枠組2015-2030におけるグローバルターゲットE(2020年までに国家・地方の防災戦略を有する国家数を大幅に増やす)の達成のために、よりよい復興、近年の気候変動への対処、先進技術などの多様な紹介や議論があった。
医療・看護では唯一、Participatory Monitoring of Health Security by Nurses for Disaster Risk Reductionと題したセッションを開かせていただき、日本、インドネシア、ネパール、オーストラリアでの活動を通して、災害リスクの低減に向けた看護ケア、プライマリヘルスケアの実践とそこから見えてきた課題を発表した。保健サービスが不足している中で、地域の看護職は、地域の言語、文化、ニーズとリソースを理解しており、健康をモニタリングすることについて主要な情報提供者として重要な役割を担っている。生活環境を評価し、リスクの高い人口とニーズを特定し、災害後の公衆衛生の回復を支援し、地域および国レベルで関係当局への情報伝達を目指した。特に初期の健康リスク事例を発見するための革新的なアプローチとして地理空間情報技術が組み込まれていることが注目を集めている。議論には学際的に顕著な防災の研究者が助言くださり、この地域参加型のアプローチは、災害リスクの低減、持続可能な開発目標、持続可能な人間の安全保障の促進のために仙台フレームワークに沿って監視する災害の健康リスクを視覚化するのに役立っていると評価された。
また、同時開催された「仙台防災未来フォーラム」は、「わたしたちの防災を届けよう 世界へ、未来へ」と題し、研究に限らず多様な市民、団体らのマルチステークホルダーの取り組みや知恵、アイディアを色々なセッションやブース展示、体験型イベントなどを通じて、日頃の活動を発信していた。その中で、神原がCWSJAPAN・防災・減災日本CSO-ネットワークにお招き頂き登壇した。それまでに各分野の専門家と協働し、「豪雨災害の教訓:西日本豪雨等の経験」と題し、教訓を抽出し、執筆し英文冊子化しておりその内容を伝える形で、情報共有をはかり、今後の豪雨災害への備えを強化すべく議論した。
「第2回世界防災フォーラム/
仙台防災未来フォーラム」における会場の様子
仙台防災未来フォーラムセッション
ポスター会場の様子
防災研究者、実践者、国連職員らとジェンダーに関する議論
EpiNurseセッション
また、国際交流委員会で、国際的な潮流に看護が同調して寄与するため、寄与してきた部分と残された課題などを明確にし、UNDRRの仙台防災枠組みのボランタリーコミットメントのワーキンググループを立ち上げ検討している。会場内でその担当者と会い、進捗状況の情報交換を行った。その後、何回かの校正のやりとりを行い、現在は、そのウェブサイトの中でコミットメントが紹介されているのでご覧いただきたい(https://sendaicommitments.unisdr.org/commitments/20200102_001)。
このように、国際交流委員会では、防災の視点からどのように災害看護学会が、国際的に寄与できるかということを検討し発信し続けてきた。この活動は、今まさに起きているグローバルなバイオハザード災害であるCOVID-19のパンデミックの対応とこれからの社会と健康と災害看護のあり方を考える上で非常に役に立つものと思いながら、学会員のみなさまと見直していかなければならないものとも考えている。今後は、COVID-19に伴う防災の潮流をモニタリングし続け、学会のなかで積極的に発信したいと思うので、またご意見をお寄せいただければ幸いである。
2019年10月の台風19号豪雨災害
ボランティア活動と本学の備え
国際医療福祉大学保健医療学部看護学科 野呂 千鶴子
1 経緯
台風19号は、2019年10月12日に栃木県県南部を中心に甚大な被害をもたらした。
日本災害看護学会先遣隊が栃木県に被害状況調査に入ったのは、被災から2週間後だった。10月26日(土)に先遣隊の大野先生より「足利市から災害看護ボランティア要請がある」との連絡を受けた。その日の夜に学科教員に一斉メールで、県南部の被災状況とともに看護ボランティアへの参加を呼び掛けた。当時の本学科の教員数は36名であったが、翌日の夜までに25名の教員から11月の3連休を中心に参加できるとの返事があった。月曜日の午前中にはボランティア計画書を作成し、足利市に報告した。この時、市から「全員教員なのか」「本当に無償ボランティアでよいのか」と尋ねられたことが印象に残っている。先遣隊がていねいに被災地を回られ、看護職員不足に対する看護ボランティアの派遣について説明された結果、栃木県や栃木県看護協会の支援が素早く入ることになり、我々がボランティア計画を提出した頃には、その後の土日や連休中も含め、住民健康調査チームの体制が整ってきていた。その中で、我々のボランティアとしての役割を模索するため、10月30日に野呂・石澤の2名が現地に出向いた。
2 現地活動報告
2人は、足利市の保健師とペアを組み、市内の被災地区住民の健康調査を行った。被災から2週間以上が経過していたので、ほとんどの家屋で消毒作業は終了していたが、被災が原因と思われる蜂窩織炎により1週間通院したと話す人や、感染性胃腸炎(激しい嘔吐・下痢・発熱)で家族内感染を起こしたと話す人もいた。工場の近くに住む人は、工場から流出した油で、庭や床下が臭く困っていると話していた。
そして、今まで水害にあったことのない地域で起こった「想定外の被災」に行政も住民も戸惑いは隠せない状況だった。今回の経験が、今後の防災計画に確実に反映され、ここから防災・減災が始まることに期待をしたいと思う。
今回の我々のボランティア派遣は、その後の人員確保ができたことから、初日の2人の活動で終了した。
3 本学教員のボランティア参加への意欲
今回ことは、本学科の中に「できることがあるのであれば、私たちはやろう」という機運となった。これには、東日本大震災で被災し、さらに被災地支援も行った経験が活かされていた。9年前本学科では写真に示す「ピンクのジャンパー」を作成し、被災地ボランティア活動を行った。これにより、周囲のボランティアや関係者との信頼関係を築き、教員間の仲間意識も醸成した。本学に着任して日が浅い私は、そのジャンパーの意味を知らずにイベント等で着用していたが、今回誕生のきっかけを聞き、代々引き継がれたジャンパーが、知らず知らずのうちに絆を高め、災害ボランティア出動要請時の多くの教員の手上げにつながったことを実感した。
このような貴重な機会を与えていただき、感謝いたします。
国際医療福祉大学保健医療学部看護学科ジャンパー
組織会員会の活動内容
組織委員会理事 守田 美奈子
日本災害看護学会には、個人会員に加え組織会員という施設単位で加入する制度がある。組織会員の制度は、1998年災害看護学会の発足時から作られた。災害への取り組みは、個人だけでなく、病院や大学等、組織としての取り組みが重要となるからである。例えば、平時からの防災対策の取り組みは、個人というよりも、組織単位で検討し対策を講じることが必要となる。また、災害発生時の活動も組織としての活動や、組織間での情報共有などが重要となる。このような考えに基づいて、組織会員の制度が創られ、発足後20年に渡って活動が続けられてきた。2020年の段階で35組織の会員が所属し、内訳は病院、大学、看護協会、NPOとなっている。
主な活動は、年1回の学術集会の際に、組織会員による会議が開催され情報交換がなされる。また情報共有の場として、毎年テーマを設け学術集会で、組織委員会主催の交流集会を催している。2019年は、「実際に繋がる災害訓練のあり方」のテーマで開催した。大変盛況で、多くの参加者を得た(写真)。アンケ―トの回答者は15名であったが、ほとんどの参加者が参考になったと回答していた。3名のプレゼンテータ―が提示した訓練方法や3分間シミユレーター等に関すること、実践に生かしたいという感想が多く書かれていた。学術集会会場には、組織会員の病院等の災害マニュアルを展示するブースを設けている。会場では、参加者が他組織のマニュアル等を手に取る姿が見られた。他組織のマニュアルを見て、自施設に生かしたい等の声も聞かれた。
組織会員制度は、組織間の情報共有や活動時の連携によって、個人を超えた活動ができることがメリットと思われる。そのためには、多くの組織の加入があることが大切である。
学術集会時に開催した組織会員による会議(2019年9月)
ただし、学会発足時と比較すると、現在、研修会等も様々な機関で開催されるようになっているので、看護職が情報を入手したり交流したりするなど、本学会以外の場での組織間連携も活発になっている。
災害看護学会における組織会員の意義やメリットは何か、それを検証しながら、あらたな組織会員会の機能を探っていくことが重要だと認識している。まずは、災害看護学会の学会員の皆様に、本委員会の存在をご理解頂き、所属組織に加入していただくような働きかけにご協力いただきたい。
組織間の連携が、学会にとって大きなパワーになるよう、委員会活動を行っていきたと考えているので、何卒ご協力をよろしくお願いします。
これは災害看護専門看護師としての活動か
特定非営利活動法人 Both-AI(呼称:ぼうさい)理事長
災害看護専門看護師 趙 由紀美
災害看護専門看護師に認定して頂いて以降、やっていることが専門看護師としての活動なのか、社会の求めに応えられているのか、災害看護とは何なのか、悩む日々が続いている。
私は病院勤務の傍ら、青少年健全育成活動と地元での災害を契機に、地元が災害にも強いまちになるために災害看護を学びはじめた。看護の知恵や技で貢献するだけでなく、様々な分野の専門家とのネットワークが重要と学び、まずは地域内外の個人同士を繋ぐことを活動の一つとしてきた。
災害看護で地域社会に貢献していくための法人を設立した矢先、平成30年西日本豪雨災害が発生した。甚大な被害を受けながらも訪問看護事業を続け、更に地域の人々のいのちと暮らしを守る活動を始めた【特定非営利活動法人そーる】の代表と出会い、伴走型の支援者支援を開始した。概要としては時相に応じ予測される健康危機と対策に関する情報提供、対話を通じた意思決定支援、関係者との面談同席と記録、交渉助言、地域内会議の代理出席、各種資料作成の相談・準備、物資調達、家族ケア、被災地内外での人的ネットワーク構築の促進等であり、現在も継続し、また相互支援にもなっている。
地元での防災訓練の企画運営以外には活動を始める余力が足りない私を助けてくれているのは、子育て支援団体や市民活動の中間支援組織の代表らや基礎自治体の職員らである。「みんなで考えよう障がい者の減災ケースワーク」と題し、発達障がい児と家族への災害時の関わり方や日常の課題について情報共有し始めたところである。当事者や家族、教育や福祉に携わる行政職、防災士、看護職、障がい者事業所職員等の参加がある。自治体と教育委員会から後援を受け、課題や提案を報告書に盛込み、自治体全部署で回覧して頂いている。皆で情報共有する過程が、いのちをまもる人的ネットワークの構築になると考えている。
無理のない範囲で少しずつ活動させて頂いているが、それらが災害看護専門看護師としての活動に値するか否かは悩んでいる。悩まずにいるのは災害看護の対象が「人間」であるという認識のみだが、そこに自分や家族が含まれることを忘れないようにしたい。これからも周囲への感謝を忘れずに、悩みながら活動を続けていくしかないと思っている。
自主防災組織の防災訓練の企画運営(2019年4月)
「みんなで考えよう障がい者の減災ケースワーク」活動(2020年2月)
「災害発生時に効率的に安全を確保するための3つの原則
~感染症蔓延という一つの災害を通じて~」
公益社団法人日本精神科病院協会 DPAT事務局
事務局員/災害看護専門看護師 岸野 真由美
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応に携わっているみなさまへ心から尊敬と敬意を表します。
武漢からのチャーター便の帰国者の対応に始まり、横浜でのクルーズ船対応がいつのことだったのだろうかと思うくらい、ここ数か月間で世の中がガラッと変わったように思う。また、コロナ終息後もまた世の中が変わっていくのだろうと感じている。
各医療機関で、そして各地域で新型コロナウイルス感染症に係る対応やその準備に追われていることと思う。ただでさえ強い緊張を強いられる中、医療従事者への批判やこころない発言などが起こっている状態に心を痛めている。
感染症への対応は、「正しく知って正しく恐れること」である。先の見えない状況の中、不安の渦に巻き込まれてしまっているだろう。不安が起こることは当たり前のことである。しかし、不安や恐怖はときに日常生活まで支障をきたしてしまったり、知らず知らずのうちに自分や他人を傷つけてしまったりすることがある。
そのような中で一番大事なことはセルフケアである。日々の対応に追われていたり、様々な情報ばかりに目が向いていたりすると自分自身へのケアが疎かになってしまう。とはいえ、日常行っていた趣味や気分転換の方法があったとしても今は自粛で実施が困難になっているかもしれない。自分自身の今を見つめ直す時間にあててみるのはいかがだろうか?
次に、周りを見渡してみていただきたい。「ここは安全なのか?そうではないのか?」明確に切り分けることは難しいかもしれない。今できる限りの対応が行えているのか?どうすれば安全に近づけるのか?と改善方法の検討に繋げることは出来ると思う。
最後に日頃からのつながりを活かして、一人一人が独りぼっちにはならないように声掛けをしていき、つながりを強固なものにしていく必要があるのではないかと思っている。今は、大切な人や会いたい人に会うことが叶わないが、メールや電話、SNSなどを利用してみなさまからコンタクトを取っていただくこともよいのではないだろうか「この困難な状況を、それぞれの立場でできることを行って乗り切ってまた会おう」と。
対応は長期戦の様相であり、災害発生時に効率的に安全を確保するための3つの原則である3S:Self(自分自身)、Scene(現場)、Survivor(傷病者)に沿って述べた。
一日も早い事態の収束と、みなさまのもとへ日常が一日も早く戻ってくることを心より願っている。
編集後記
このたびの新型コロナウィルス感染症により、亡くなられた方・ご遺族に謹んで哀悼の意を捧げますとともに、被患された皆様に心よりお見舞い申し上げます。また、感染拡大から人々の健康と生活を守るため、保健・医療・福祉・教育等、それぞれの場で日々ご対応いただいている皆様に深く敬意を表します。
「危機は変革のチャンスでもある」といわれます。コロナウィルス禍の被害を最小限に収める努力をしつつ、今だからこそ、将来を見据える力を備えたいと思います。ニュースレター第39号は大変な状況下でありながら、5人の方々からご寄稿いただきました。いずれもそれぞれのお立場からの専門性の高い見解や実践・活動の報告です。みなさんの将来の活動のありようを考える貴重な示唆になると思われます。(山下留理子)